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「ああ、そうだなぁ。俺の時も菖蒲だった気がする」
砕けた口調で話す父を見て、この二人が同級生であることを知った。父は生まれ育ったこの町で今も暮らしているのだ。
「とりあえず、自己紹介しましょうか。私は……」
女性が朗らかな声で私に告げる。父は頷いて、戸惑う私に淡々と述べた。人は本当に驚いた時、声すら上げられないんだ。白いテーブルの上を飛び交う会話が何を話しているのか分からない。
しばし放心していると、父から「ほら、お前も」と促され、はっと顔を上げると私が注目されていることに気がついた。
頬が熱くなるのが分かる。
「桜……です。よろしくお願いします」
小さく頭を下げる。
女性――父の再婚相手の母は「どうりでコサージュが良く似合うと思った」と笑った。
「あなたもほら」
ずっと黙っていた男の子がゆっくり顔を上げた。彼の瞳に戸惑う私が映る。その瞳が揺らいだように見えたのは気のせいか。
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