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心の準備をするような間があって、男の子は言った。
「僕は藍。よろしく、桜さん」
「よろしく……藍、君?」
気まずい。それにしても藍。藍色の藍。珍しい名前だ。男の子につける名前にしては女の子っぽい。でもすぐに納得した。
新しい母の名前は浅葱さんと言う。
「言えなくてごめんな、桜」
「突然でごめんなさい。整理つかないよね。今日からひとつ屋根の下、しかもきょうだいができるなんて」
二人の困った顔。これ以上その顔を見たくなくて、私は無理に笑った。
「いえ、これから……よろしくね、お母さん、藍君」
新しい家族、新しい環境は胸の色を変える。それはたぶん、私だけじゃなかったのだ。数カ月だけ年下という藍は、弟ということになった。桜と藍。普通なら混じることのない色が交わった。
それは、交わってはいけない色だった――。
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