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「……手紙?」
自宅の黒いポストを開けたら、一通のシンプルな封筒が入っていた。差出人の名前はない。消印もない。
「ただいま」
「おかえり!」
リビングへ繋がる扉の向こうから、叫ぶような声が私を迎えた。ちょうど夕飯の支度をしているのだろう。ジューと何かを焼く音が聞こえる。
私は玄関のすぐ左手にある階段を上り、二階にある自室へ向かう。二階は狭い廊下に面して三部屋あり、右奥が書庫、真ん中が私の部屋、そして左奥が弟の部屋だ。
桜色のプレートがかかった真ん中の部屋のドアを開ける。プレートがカタリと音を立てた。
「あ、ペーパーナイフ下だ」
スクールバッグを勉強机の横に掛け、すぐ階段に戻る。
リビングに入るとテーブルに対してᒪ字型に置かれたアイボリー色のソファーに、溶けるようにもたれる弟がいた。
「おかえり、藍」
弟――藍はちらりと私に視線を向けると、小さく頷いた。おかえりくらい言いなさいよと思ったけど、別に言われたいわけでもないので黙っておく。
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