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中学校に入学する春。
新しい制服と環境にドキドキしていた入学式。桜が散ってほしくなくて、何とか入学式まで咲いていられるように祈り続けたかいあってか、その日は快晴で綺麗な桜の花びらが私を迎えてくれた。
「撮るぞ」
「はーい」
校門横に植えられた大きな桜の木の下、緊張した表情の私がフィルムに焼き付けられた。
この後は父と食事をする予定だった。家から少し遠いレストランなので、一度自宅に戻り車で行くことになっている。
そうして興奮冷めぬまま向かったレストランは、いつものファミリーレストランではなく、水にもお金がかかるような高級レストラン。私はますます緊張してしまい、通されたテラス席で人形のように大人しくしていた。
ただ、妙だなと思っていた。
「もうそろそろだな」
何故かやたら腕時計を気にする父を疑問に思いながら、私は遠くに見える連峰をぼんやり眺めていた。
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