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どれくらいそうしていたのだろう。
父が突然すっと立ち上がった。釣られて父を見上げると、緊張した面持ちで入り口を睨んでいた。
視線の先を追うと、こちらに向かって歩いてくる女性と男の子がいた。
「こんちには。遅くなってしまいました」
女性が頭を下げる。その人は白いジャケットに浅葱色のワンピースを着ていた。男の子は濃紺のブレザーに臙脂色のネクタイ。入学式で見た制服だった。
「構わない。どうぞ」
二人に椅子を勧める。ああ、そういうこと。二人なのにどうして四人テーブルなんだろうと思っていたけど、この二人が来るからか。
それにしても、誰なんだろう。
「入学おめでとうございます。何だか懐かしい。お嬢さんの胸に咲く桜のコサージュ、私の時からデザイン変わってないのね」
女性は私に優しく微笑んだ。新一年生には校門でコサージュが配られたのだ。男子は菖蒲、女子は桜。そして私の胸には桜、左隣の男の子の胸には菖蒲が飾られている。
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