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鞄の隙間から光が差し込んでくる。
彩子の意識が覚醒すると、そこは見知らぬ部屋だった。
白色の蛍光灯に照らされた室内には、必要な家具や荷物だけが置かれただけで、先日まで沢山の人形達に囲まれていた彩子には、少し物寂しいくらいであった。
そんな殺風景な部屋には、全身黒い格好をした男性が彩子に背を向け、立った状態で電話をしていたのだった。
「だから、僕は聞いてないって! 突然、送られてきても困るから!」
電話口で怒りを露わにしている男は、どうやら20代くらいのようだった。
スマートフォンとかいう小型の機械で電話をしていた男は、彩子が聞いている様子に気づく事なく電話を続けたのだった。
「人形は姉さんの得意分野だろう! てか、こういうモノは、鈴森か修麗院に持って行けよ! アイツらなら得意だろう!? 末端にいる僕はちがう……。えっ!? まあ、義兄さんが駄目って言ったなら仕方がないのかな……」
男の話し声はだんだんと尻すぼみになって言った。
どうやら、彩子の引き取りについて、男の姉と揉めているようだ。
「とにかく、僕は面倒を見ないからな! てか、見れないからな! この歳で犯罪者なんて嫌だからな!」
(またか……)
彩子が内心で溜め息をついていると、男は舌
打ちをしながら通話を切ったのだった。
そのまま男が怒り任せに放り投げたスマートフォンが、たまたま彩子が入っていた鞄に当たった。
その弾みで、鞄がパカリと開いたのだった。
「眩しい……!」
彩子は光に目を焼かれた。
こういう時に、自由にならない身体にもどかしさを感じる。
彩子が自由にならない身体でなんとか光から逃れようとしていると、ようやく男が彩子に気がついたようだった。
面倒くさそうに頭を掻きながら、彩子の元にやってきたのだった。
「あれ。ようやく目が覚めたんだ?」
ようやく、男の身体によって光が遮断された彩子は男をまじまじと見たのだった。
年齢は20代ぐらいだろうか。前髪にギリギリ隠れている目は黒々としていた。うなじの辺りで切った短めの髪だった。
男は彩子の前に座ると胡座をかいた。
皺の寄った黒のワイシャツに、ところどころ破れた黒のジーンズ姿の男に、ややダラけた印象を受けたのだった。
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