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「私の前の持ち主はどうなったの? 私は前の持ち主の親戚によって、鞄に入れられたところまでしか覚えていないのだけど?」
厳密に言えば、前の持ち主の自称・親戚である。
彩子は鞄に入れられる時に初めて会った。
他の人形達も「知らない」と答えて、それぞれ自称・親戚によって鞄に入れられていったのだった。
「その親戚ったら、私たち人形を乱暴に扱ったのよ! 信じられない!」
「それは大変だったんだね」
「ちゃんと聞きなさいよ!」
適当な返事をする夜鳥の態度に、彩子はジタバタと踠いて怒りを露わそうとしてみる。
だが、当然ながら人形の身では出来るはずがなかったのだった。
「前の持ち主はね。亡くなったよ。死んだんだ」
「そう……」
夜鳥の言葉に彩子の怒りは、すうっと引いていったのだった。
「それで君達は売られたんだ」と夜鳥に告げられても、彩子はやっぱりと思っただけだった。
少し前からそんな兆候があった。人形などの私物を整理したり、仰々しい雰囲気の人達と死後について話し合っていたりしたのだ。
「君の前の持ち主は、有名な人形コレクターだったんだね。試しにネットで調べてみたら色んな記事を見つけたよ。海外にも人形の買い付けに行っていたようだし」
「そうね……。私も、海外のアンティークショップで出会ったのよ。何年も前に」
「そっか……。それで、君はどうして人間から人形になったんだい?」
「答えたく無いならいいよ」と夜鳥は付け加えたが、彩子は「話すわ」と即答した。
「久々に人間と話せて嬉しいの。話しを聞いて欲しいの」
これまで人形としか会話が出来ず、けれども純粋な人形じゃない彩子は、どこか疎外感を覚えていたのだった。
「その代わり、ちゃんと聞くのよ」
「はいはい。お嬢様」
やや気怠げながら、それでも彩子の話をよく聞こうと夜鳥は彩子の前で胡座をかいたのだった。
(何だかんだ言いながらも、面倒見がいいじゃない)
彩子は内心でクスリと笑ったのだった。
「いい? 私は女学生だったのよ。その時はまだ」
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