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そうして、とうとう彩子は人形の店で倒れてしまった。
コツコツと足音が店内に響いた。
その時になって、始めて店の中から人が現れたのだった。
彩子は自由が利かない首をどうにか動かすと、自分の目の前にはよく磨かれた靴があった。
目線だけ上げると、カンカン帽を深く被った男だった。
「ようやく、効いたか」
男は年齢を感じさせない声で、彩子を見て鼻で笑った。
「あ、な、た、は……?」
彩子は男に手を伸ばそうとしたが、自由が利かない身体では腕を上げるのが精一杯であった。
「喜べ。お前の望みを叶えてやる」
そこで、彩子の意識は途絶えたのだった。
そこまで話を聞いた夜鳥は舌打ちをした。
「その男。人形の異能力か」
夜鳥たちが持つ異能力者の中に、人形に関する異能力があった。
人形を自在に操る異能。その中には、材料さえあれば人形を生み出せる力があった。
布、草、花、水、植物、食べ物、そしてーー人体。
悪質な異能者の中には、人体から人形を生み出して、それを売買する者もいた。
彩子が会ったという異能者は、その悪質な異能者だったのだろう。
「やっぱり、そうだったのね」
淡々と返した彩子に、夜鳥は目を瞬かせながた。
「驚かないんだな」
「そんな気がしたのよね。それに、昔は今以上に、あちこちに異能者がいたから」
今でこそ、一部の一族の、限られた者しか異能は知らないだろうが、彩子が人間だった頃はまだ大勢いたのだった。
「人形になった私が次に目が覚めた時、そこは船の中だったわ」
彩子が目を覚ますと船の中だった。
どうやら、船に乗せられてどこかに連れて行かれるらしい。
彩子はマズイと思ったが、身体の自由は聞かなかった。
動かない身体で騒いでいると、「うるさい!」と一喝された。
彩子が視線を移すと、そこにはお店にいた西洋人形が乱雑に箱の中に入っていたのだった。
「あ〜あ。だから来ちゃ駄目って言ったのに」
「いいんじゃない? 今回はこの子だけでしょう? 前はもっと酷かったじゃない」
「あ〜。確かに」
人形達は口々に話していた。
彩子が訊ねると、人形達は彩子が人形にされた事と、彩子が人形になるとすぐに国を出た事を教えてくれたのだった。
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