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「晴、りんご置いとくわね?」
「ねぇ、お母さん。僕はいつまで入院しなきゃいけないの……?」
「病気が良くなったらね」
「それっていつ……?」
「晴……」
小学生の時の俺……天沢晴は病弱でずっと入退院を繰り返してろくに学校に行けてなかった。
20まで生きられないんじゃないかとまで思った。
友達もいなければ、外で遊べる体力も全然無い。
こんな人生を歩む為に生まれた訳じゃないと子供ながら思っていたわけで。
だけど、そんな俺に希望の光は突然降ってきた。それは、小5の夏の事だった。
「外出許可?」
「そ、晴……最近調子が良いから特別にね」
「別に行きたい場所とか無いし……」
「そう言うと思って! タカシくんが晴を楽しい場所に連れて行ってくれるって」
「タカ兄が?」
「うん、久々にはしゃいで来てちょうだい」
タカ兄は7歳上のイトコだった。一人っ子の俺にとっては実の兄みたいな人。
そんなタカ兄が俺を連れ出してくれたのは意外な場所だった。
「辛かったらすぐ言うんだぞ? 晴」
「ここ……随分と小さなホールだね?」
「うん。まだ小さいユニットだからな。けど、晴も元気貰えるんじゃないかな? 同い年くらいの子ばっかだし」
「ジュ……なんて読むの?」
聞いた事もない名前のユニットのライブに行く事になってしまった。
「ジュエルスターだよ! 最近デビューしたてのアイドルユニット。実はさ、高校の友達にチケット2枚余ったからって貰ったんだわ」
「へぇ……」
「俺、男子のアイドルはよく分からないけど、晴なら気に入るかなって! リーダーは晴と同い年だし」
「同い年!?」
「今、アイドルってデビュー早いからな!」
男が男のアイドルユニット見て楽しめるのかな。
「見事に女子ばっか」
「仕方ないって。ライブ、そんなに長くはないらしいけど……大丈夫そうか?」
「今日は気分悪くないから大丈夫」
「そうか。ライブ中は座ってて良いからな?」
ハマるはずもないと思い込んでいた、11歳の夏。
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