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第09 チャンスよさよなら
雪は教室へ入ると美由紀に声を掛けた。
「美由紀、おはよう」
「雪、おはよう」
「健太もおはよう」
私は座りながら声を掛けた。
「おはよう、雪」
「土曜日は気が楽で良いよね」
健太は妙に嬉しそうにしてる。
「何で?」
「だって、半日で帰れるんだし、次の日休みだしさ」
んんんんんんん?
「健太、部活は?」
「真理に振られたら、何もかもが面倒になって止めた」
可哀想に、落ちる所まで落ちたのか。
「健太って、美由紀みたいなのがタイプだったよね?」
「うん、でも親友の彼女だしさ」
いやいや、その親友に取られたんだからね。
「雪」
「何?」
「俺と付き合ってよ」
こいつ見境が無く成って来てるな・・・。
「無理よ」
「別に好きな人とか居ないんだろう?」
「私には、兄さんが居るもの」
「はぁ、浩介が羨ましいな」
完全に、浩介と逆転してしまってる。
「明日、何時にする?」
「う~ん、可愛くお洒落したいから10時!」
「おっけ~」
後ろのリア銃がウザイ! 大体、美由紀は浩介の何処が良いんだろう。
真理も積極的に行けば良いのにな・・・。
もうパンツ作戦は通用しないだろうし、どうしよう。
仕方がない!
優しさを、妹への優しさを使わせて貰おう。
「兄さん、ちょっと体調が悪いから先に帰るわ」
「体調って、何処が悪いんだ?」
「頭とか、喉とか、色々」
「それじゃ、家で寝てるね」
「雪、お大事にね」
「有り難う、美由紀」
「・・・」
「ごめん、やっぱ俺も帰るね」
「う、うんお大事に・・・」
「真理、今日は作らないから」
「はい」
おお、来た来た、走ってくる音がする。
「雪、大丈夫か?」
「兄さん、大丈夫よ」
ここで持たれ掛かれば、きっと一緒に帰るはず。
倒れて来る雪を、優しく抱える浩介。
「一緒に帰ろう、心配で勉強なんか出来ないし」
「有り難う、大好きな兄さん」
チョロすぎるーーーーーーーーーー
やっぱ、元々リア充経験がない浩介には余裕ね。
でも何だろう、この癒やされる感は、でも良いか上手く行ってるんだし。
「雪はちゃんと寝てるんだぞ、お粥作って来るからな」
「母さん悪い、台所使わせてくれ」
「どうしたの?」
「雪のお粥を作るんだ」
「風邪でも引いたの? お母さんが作るわよ」
「いや、俺が作ってやるから」
「ハイハイ、本当に仲が良いわよね」
浩介はお粥とくすりを持って2階へ上がった。
「お待たせ、お粥と薬だよ」
「有り難う」
「大丈夫? 起きれるか?」
「うん、自分で食べれるわ」
「無理しないで良いよ、ちゃんと食べさせて上げるからさ」
優しいな、浩介は。
「雪、天使でも風邪って引くんだね」
「ええ、万能は神様だけよ」
嘘だけどね!
「そうなんだ、雪は天国でも雪って名前なの?」
「違うわ、本名はね・・・本名は・・・」
あれ? 思い出せない。
「調子悪かったら無理しないで良いよ」
可怪しい、自分の名前も女神様の名前も思い出せない。
「兄さん」
「ん?」
「熱が有るか見て欲しいな」
「体温計取って来るね」
「ううん、兄さんの額で計って欲しいの、駄目かな?」
「しょうがないな」
可怪しい・・・浩介から何も記憶が入って来ない、まさか力が消えて行ってる?
「少し高いかも知れないけど、更に上がると行けないから、今日は寝てようね」
「うん」
「眠るまで居て上げるから、安心して良いよ」
はぁーーーーー 癒やされて行く。
私は何て愚かな事を考えて居たんだろう、彼は幸せになるべきだ。
このまま人間になって、浩介と一生を共にしても良いかもな。
はっ!
知らずの内に寝てた。
あれ起きれない、何で浩介がここで寝てるんだ?
「兄さん、兄さん」
「ああ雪、調子はどうだい?」
そうだ風邪だったんだ!
「うん少し楽になったよ、有り難う」
「そうか、良かったよ」
「雪は俺が真理と付き合えば帰れるのか?」
「うん、そうだけど・・・」
「そっか寂しくなるけど、美由紀と別れて真理に告白しようか」
ラッキーチャンスが転がり込んで来た。
「やっぱ、人間の世界だと居心地悪いだろ?」
「そんな事無いわ、兄さんの側は特別居心地良いわよ」
な! 私は、何を口走ってる。
「そうか、それならこのままでも良いのかな」
「兄さんは、誰とも付き合って欲しくないわ、私の側にだけ居て欲しい」
ああああ、私は馬鹿だ、馬鹿なブラコンだ。
「そっか、考えてみるよ」
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
「部屋に居るから、何か有ったら呼んでね」
「うん」
折角のチャンスが逃げて行った・・・。
勿体ない事をしたな、私はいずれ女神に成ろうと決めていたのにな。
いや!
まだ諦めるのは早いわ、浩介の事も分かって来たし、またチャンスは作れるはず。
まずは美由紀よね・・・私の方が絶対に可愛いと思うんだけどな。
美由紀に振られて、私にも振られた所で、真理の背中を押せば浩介も落ちるはずだわ。
相変わらずだけど、私って完璧よね、ふふふふ。
取り敢えず、今日の事は忘れて寝よう。
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