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ep1「水と地面は命より高い」出題編
1月。新年会で街が騒がしい季節。酒のトラブルも多くなる季節だ。
管内で起きたその案件は、八割方事故だと誰もが思っていた。それでも現場を見に行くのが、大城警部補の性分だ。
『現場を見ずに謎が解けるか』
それが彼の信念だった。
パトカーが現場に到着し、大城は事件についてメモをまとめる。
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・死亡者は76歳男性。
・現場は農地の畔を走る水路の一角。傍の畦道は、死亡者の家に向かうための近道として普段から利用されていた。
・死因は溺死。
・頬や手に擦傷痕あり。
・血中からは高濃度のアルコール。事件前に町内会の会合で焼酎を1升飲んで泥酔し、町内会長と殴り合いの喧嘩をしたという証言がある。
・水路の寸法は、幅90cm・高さ50cm程度のU字側溝。水深は10cmほど。
・死亡推定時刻は夜11時。現場は夜になると人通りはなく、薄暗い。
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「まぁ、最初は町内会長さんから事情を聞いたりしたんですけどね」
派出所の警官が言った。
「町内会長さん、御伴の連中と一緒にその後2次会で十三くんだりまで繰り出して朝帰りしてるんです」
「流石に十三から京都まで人を殺しに戻ってる時間はないってことか」
「ええ。ここがシロとなると、やっぱり事故でしょうねえ」
大城はぼんやりと農地を眺める。刈入れられた後の畑に、トラクターがすき込みをしていた。
「おや、ここは仏さんの農地じゃないのか?」
「息子さんですよ。死んだお父さんの後を継いで畑をやるらしい。先祖代々の土地だから粗末にはできないって、まぁ殊勝な息子さんですな」
それに、ここだけの話――と派出所の警官は続ける。
「隣の伏見学園大学がグラウンド拡張のためにこの畑を買いたいと言ってるのを、あそこの親子は突っぱねたらしいですよ。結構な大金を積まれたらしいんですが」
――そこまで知っていて、なぜ伏見学園大学の関係者を調べない。
そう言いたいのを、大城はぐっとこらえた。
彼はただの現場警官だ。そこまで求めるのは酷だろう。こういう時のために、自分がここに来たのだ。
「この事件、もう少し調べる必要がありそうだな。大丈夫、後は任せてくれ」
大城は優しく派出所警官の肩を叩いて言う。
一月の空っ風が大城のコートの裾を翻した。
(出題編終)
<出題>
1これは事件か、事故か?(10点)
2事件であるなら犯人は誰か、もしくはどの組織か。(20点)
3殺人である場合、その動機は何か。(30点)
4推理の鍵となるキーワードを述べよ。(40点)
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