命を待つ町で

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我にかえって気づいた。 「お、おかあちゃん!  ミドリとアカネがいてない!」 「・・・そうやな・・・」 「そうやなって・・・いつのまに  手が放れてしもたんやろ・・・」 「・・・・・」 「おかあちゃん・・・?」 「帰ってくる・・・ちゃんと  帰ってくる・・・帰って・・・」   ブツブツ言いながら 顔も身なりもボロボロの おかあちゃんはふいと立って 「厨房・・・・使えるもん  あるやろうか・・・」 ふらふらと奥の厨房あたりへ 歩いていった。 “おかあちゃん” と呼んでるけど 実の母やない。 居酒屋・天満の女将で 私・ミドリ・アカネは そこで働いてる。 女将・おかあちゃんは 一本筋の通った “女丈夫”。 私らに “客” なんか とらせたことはない。 だから、私が常連の将吉さんと “そんな仲” になったときには もの凄い剣幕で怒られた・・・。 「戦時中こそ、女を売りもんに  したらアカン!」・・・と。 でも、私が将吉さんを 真面目に好きやと、 兵隊にいってしもたけど 将吉さんの子供を産みたいと、 言うたときには 「初孫やなあ・・・」 ・・・笑うて許してくれた。
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