鬼の便り

2/14
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
『拝啓 春爛漫の好季節を迎え、毎日お元気でご活躍のことと存じます』    この一行目を読んだだけで、私は笑ってしまった。  なんとなく、想像はしていたが  早く続きを読みたい気持ちを抑え、一語一句、きっちりと読み進めていく。 『さて、先日はサトミ様の身がご無事であり、嬉しく思います』  あぁ、確かに彼はこんな感じだった。  命を助けてくれたことに感謝している。  そう、あれは一カ月半前の冬、家族でスキーを楽しむために、隣県のスキー場に二泊三日で出かけたときのことであった。    二月の連休を利用して、できもしないスキーをやろう! と、珍しく思い立った父が旅行の計画を立てはじめた。  母ものりきで、家族で休みの日にスキーウェアを買いにいく。  最初はレンタルでもよいのでは? 私が提案した。  だって、私が生きてきて初めてスキーをするレベルなのに、わざわざ高価な物を買う必要があるのか? いや、ない!  そんなお金があるなら、私のお小遣いにまわして欲しいくらいだ。  しかし、何事も形から入りたがる母の影響で、全員のスキーウェアを購入し、私の全力の説得によりスキーはレンタルすることにした。    
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!