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少年は困っていた。
昨日金曜日、話の流れで日曜日に取り決めてしまった友達との昼食。それがあるにもかかわらず、財布の残金は三百円しかない。昼食の代金は少なくとも八百円は必要なので、あと五百円足りていなかった。
約束を破ることは友好関係を築く上であってはならないことだ。断れなかった自分にも非はあるが、それでも一度取り決めてしまったものは仕方ない。
しかし少年の両親は金銭面では厳格で、小遣い以外のお金の使用は認めていなかった。もちろんそんな両親なので、家のお金を盗もうものなら雷が落ちるどころでは済まない。
ただこのまま友達との約束をドタキャンすれば、学校での立場がなくなってしまう。何とかこの現状を打破するべく思考を凝らした末、少年はあることを思いついた。
それは町中の自販機の下を覗いて、そこに落ちているであろうお金を集めることだった。
過去に仲間内で聞いた話によると、基本的に自販機の下へと落ちたお金は、その数センチの窮屈さもあって回収されないことがほとんどらしい。
自販機に入れる小銭は百円も多い。となると五百円ぐらい町中を巡ることで集まるのでは、そう少年は考えた。これなら誰にも迷惑をかけずにお金を集めることができる。
早速少年は朝食を食べるや否や、家を飛び出し自販機巡りを開始した。もちろん狙うはこの時間に人通りの少ない場所、今日は土曜日なのでまずは比較的人気の少ない通学路からだ。
夏休みではあるが午前中のこともあり、外は比較的ひんやりとした空気で満ちていた。そんな中で自転車を走らせ適度に汗を掻いた少年は、第一ターゲットとなる自販機へと辿り着いた。
ちなみにここは三階建ての建物の影、案の定自販機もその存在感をイマイチ発揮できない場所に置いてあった。
「ここなら安全だな」
しかし少年が自販機の下を覗き込もうとした時、不意に背後からしゃがれた男の声が聞こえてきた。
「おい坊主、みっともないことしたんじゃねぇよ」
びっくりして振り返ると、そこにいたのは顔のシワがくっくりと目立つ七十代ほどの男。服装は白いシャツにベージュの半ズボンと、いかにも夏らしい格好の老人だ。
早速少年は自らの行いを悔いて、ゆっくりと立ち上がった。この老人は自販機の設置主なのでは、そう思うと少年の心は簡単に揺さぶられた。
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