な、ない!

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「忠犬ハチくん」 もう、どこに突っ込んでいいのやら。短く「なに」と、憮然と返す。 「じゃあ、今日六時半にさっきのコンビニな?」 「は、…え?」 「恩返ししてくれるんだろ?」 「う、うん……」 「今日仕事終わったら一緒にメシ行こうぜ」 「えっ!?私と?」 「他に誰がいるんだよ」 「や、流石にちょっと……」 コンビニスイーツの恩が飲み代になるなんて、流石にちょっと『海老鯛』が過ぎないか? (うーん、今日の財布の中身…そんなにあったっけ?) ロッカーの中にある財布の中身を一生懸命思い出そうとしていると、斜め上から不機嫌そうな声が降ってきた。 「なんだよ…俺と二人は不満か?」 「や、そんなわけじゃ…」 「それとも何?金曜だし他に予定があったか?……デートとか」 「でっ、……あるわけないじゃん。相手もいないのに」 「そう…だよな」 「なにそれ」 随分と失礼な相槌にムッとして言い返す。 「さすがに夕飯を奢るほどのお金はないよ?給料日前だし」 私のその言葉に、なぜか満面の笑みを浮かべた南雲。 「大丈夫。奢らせようだなんて思ってない。一緒にメシ食ってくれるだけでいいよ」 「いいの?」 「ああ」 「それって、お礼になる?」 「ああ、なる」 短くそう言い切った南雲に、「変なの……」と小首を傾げると、スッと彼の顔が私の頭のすぐ横に来た。
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