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キャロビン大統領の病室には、日本人で世界政府副大統領の鳴戸湊がベッド脇で立っていた。
ベッドで横たわるキャロビン大統領は、十年は長期政権と批判をかわした人物とは、思えないほど、弱々しく手を鳴戸に差し出す。
鳴戸は、細くなったキャロビンの手首を優しく両手で包む。
「鳴戸君。閣僚に序列を作らなかった私の方針は間違いだったようだね」
「大統領のご判断は、正しいです」
「在職中に大統領が死亡した時に備えて、大統領の継承順位を、明文化して、決めておくべきだったよ」
「大統領は、必ず元気になります」
「鳴戸君。君は相変わらず、嘘が下手だね。鳴戸君、書記官。新たな、そして、私の最後の大統領令を発する。大統領が死亡したときは、副大統領が大統領に自動的に任命され、残りの任期を全うする」
鳴戸湊に同行した世界政府大統領府・書記官がモバイルパソコンに大統領令を入力していた。
キャロビン大統領は、眠るように息を引き取った。
盛大な世界政府葬が、大統領府が存在するスイスで執り行なわれた。
世界各国から要人が参列する。棺を載せた車が走る、沿道は、悲しむ人々でごった返す。
政界政府樹立の直前で、一部の国が、慣れ親しんだ国家がなくなるのを、嫌がり、世界政府に参加見送りをしようとしたのだ。
日本出身の鳴戸湊が、一計を案じた。
「各国の憲法は守られます。日本国内では、日本国憲法は守られます」
日本では憲法の改正は難しい。日本国憲法の名称さえ、『世界政府・日本州憲法』に変えることは、できなかったのだ。
そうして、世界政府樹立後も“国”と言う名称は、日本国で残ることとなった。日本だけが、“国”を名乗れるのは不公平なので、地球上では世界政府に加盟しながら、多くの“国”が残っている。
世界中で地図を、作り直す手間が省けたという意見も、取り入れた結果でもあった。
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