8号車

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8号車

カメカズ―ーーそれが小学校から高校までのあだ名でした。 「敏和ってさ。カメだよな」 小学五年の六月六日。クラスメートの服部雅夫が発見したのです。 ずんぐりむっくりの身体は小さくて丸まっていた。何か話しかけられると、 うん、うん、相槌を打つたびに時首がぴょこぴょこ動くのがカメみたいだというのです。 オマケに何をするのもゆっくりでした。 もうその日を記念日に堀江敏和は消滅して「カメカズ」誕生です。 こうして新聞の中に引きこもっているとそんな昔を思い出します。 体形は生まれつき。 のろまだったのは考え小言ばっかりしていたから。 あだ名とは恐ろしい者です。 人間だった堀江敏和がカメカズというカメに転落して段々イジメられるようになりました。 不細工でのろま。何も言い返せない。友達少ない。家は貧乏。なにもかも揃ってイジメです。 散々でした。 中学に入ったら変わるんじゃないかと期待しました。 エスカレートです。 中二の秋。 夏休み明けの登校日でした。 ロッカーに水色のブラジャーが入っていました。 それが体育教師の花岡茉莉先生のものだと判明したときは参った。 下着ドロです。 あれはキツかった。思春期の自分は密かにその先生に憧れていましたから。 先生は解ってくれまし 「堀江君じゃないよね。大丈夫だよ。先生。イジメって辛いね」 桜の花びらみたいな惚れ惚れする綺麗な先生でした。 その先生の切れ長の瞳が真っ赤になって泪が滲んていた。 凛とした人柄です。 本当は男子達は先生が大好きだからこんな悪戯をするんだ。 でも先生は誤解している。 自分は嫌われて生徒に虐められていると。 「違います。先生は違う………」 「違う?何が?」 それ以上言葉が出て来なかった。 なんだか先生と自分が同じであって欲しいとか変な事考えた。考え過ぎだ。同じ共通点なんか一つもないのに。 あの時ちゃんと言えば良かったんです。 本当に全部自分が悪かった。 先生ごめんなさい。 まさか先生が自殺するなんて。 真剣に自殺を考えていたのに先を越されてしまいました。 オレが殺したもの同じだと思いました。 勿論それも考え過ぎでした。 でもその時は自分は殺人犯だと本気で考えたのです。 その苦悩。 後々高校生になってから噂に聞きました。先生は婚約者に裏切られて死を選んだのだそう。 でも、そんな事情当時は誰も知らなかった。 考えたって解りません。 忘れたくて 忘れたくて。 ガンガン橋桁に頭をぶつけていたそうです。 犬の散歩のおばあさんに発見されなかったら死んでいました。 頭から血が流れて発見したおばあさんが悲鳴をあげて気絶。 チェーンを引きずった犬が人を呼んで来たそう。 犬に助けられたんです。 「カメが犬に」って、クラスでは笑い話になってました。
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