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9号車
神奈川の叔父の勧めで柔道を習い始めました。
投げられました。
バシンバシンと床に投げられるとその分気が晴れました。
物事はどう転ぶか分からないものです。
私には柔道の才能があったのです。小柄でも技を使って大きな相手を投げ飛ばせます。
まさか自分にこんな事ができようとは思ってもいませんでした。
叔父の指導もあって、ぐんぐん上達しました。
三年の時には県大会で最優秀選手賞を貰いました。
細長いトロフィーが今も実家の物置で埃を被ってます。
あ。いや。もう捨てられているかも。
それからはイジメなどない超・進学校へ入りました。でもそこで待っていたのはイジメよりもっとキツイ受験地獄です。
でも粘りは身に付いてます。
粘って粘って勉強しました。
成績が全ての世界でどうして自分は妬まれるのでしょう?
「ガリカメ」誕生です。
たったひとりだけ同じ中学から来た生徒が「カメカズ」の事件を喋ったのです。
車内放送が入りました。
次の駅が日本語と英語でアナウンスされます。
オルゴールが止るように過去の回想も止まりました。
不意に思い立ちました。
この失敬な老人に一言モノ申して置くのが私の義務でしょう!
バシと新聞を降ろして立ち上がりました。
「あのですね。あなたはそうやって好き勝手に思い出話をするのはいい。でも聞かされる方だって大変だ。行きずりの人だからって。それはあなたの都合だ。聞かされた方は重たい荷物を持たされたようなもんだ。いい加減にされた方が良いとご忠告致します!」
全然そんな事思ってないのに口からどんどん嘘が出ました。
単にストレスを怒りの言葉に込めて爆発して誰かを傷つけたかっただけ……すっきりするどころか嫌な気分に落ち込みました。
本物の紳士は感情をコントロールして顔には出さないといいますがどうやら事実の様です。
老人はじっと黙って身動きもせずに耳を傾けていました。
こっちはもう涙が溢れて来ました。自分の運の悪さを不幸を全部この老人のせいにしようと怒鳴った。
自分のバカさ加減といったら!
ベスビアス大噴火です。
「ねえ。やばくない」雑音の中に後ろの誰かの囁き声が聞こえました。
「何とか答えたらどうですか!!」叫んでいました。
「命は通り過ぎる一瞬の風景の様です。大事になさって下さい。では。次で降りますので。失敬」
ポケットに掛けていた眼鏡をかけてジャケットを羽織りステッキとトランクを持って立ち上がり、ちょっと私に会釈して去りました。
後に残された方は泪がほとほと零れて止まりません。
シンデシマイタイ………俯きました。
何か落ちてます。
写真です。
白い蝶ネクタイとセミドレス姿の少女が笑顔で映ってます。日付が入ってます。今年の一ヵ月前じゃないですか!
コロシテヤル
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