第一話:隠されていたのは、甘い甘い愛の囁き

2/9
前へ
/21ページ
次へ
「まぁ、あなたに言っても分からないわよね。」 彼女はそう言って目を細めると笑った。そして優雅に紅茶を飲んだ。 紅茶の香りはいつだって甘いけれど、彼女の紅茶には砂糖は入っていなかった。 「だってあなたは、喋れないし、心を持たないお人形だもの。」 彼女の前に置いてある椅子には人はいなかった。いるのは彼女と小さな猫のお人形だけ。 「そろそろ、お呼びかしら。」 猫のお人形は大切に手入れされていた。ブラシで梳かした後のような毛並みに、まるで洗ったばかりのような真っ白な肌。猫のお人形の目は鋭くも微笑んでいるようにみえた。 「じゃあ、バイバイ。」 彼女は椅子から立ち上がると、テラスのガラスドアに手をかけた。キィという音と同時に中からふわりと甘いサクラの香りがした。彼女の白いワンピースが綺麗に靡いて奥に消えていった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加