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「まぁ、あなたに言っても分からないわよね。」
彼女はそう言って目を細めると笑った。そして優雅に紅茶を飲んだ。
紅茶の香りはいつだって甘いけれど、彼女の紅茶には砂糖は入っていなかった。
「だってあなたは、喋れないし、心を持たないお人形だもの。」
彼女の前に置いてある椅子には人はいなかった。いるのは彼女と小さな猫のお人形だけ。
「そろそろ、お呼びかしら。」
猫のお人形は大切に手入れされていた。ブラシで梳かした後のような毛並みに、まるで洗ったばかりのような真っ白な肌。猫のお人形の目は鋭くも微笑んでいるようにみえた。
「じゃあ、バイバイ。」
彼女は椅子から立ち上がると、テラスのガラスドアに手をかけた。キィという音と同時に中からふわりと甘いサクラの香りがした。彼女の白いワンピースが綺麗に靡いて奥に消えていった。
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