殻が欠けた

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殻が欠けた

「また会えるか?」 会えるよ 「俺の事忘れない?」 忘れるわけないじゃん 「絶対だぞ!」 うん、約束! ──── .. ああ、 .. 泣かないで、     時期は冬、寒い室内に劈く様な目覚ましの音で目が覚めた。夢の中で、小さい男の子が泣いていた、半分寝惚けていた思考を巡らせてはみるものの、思い出せる事なんて其れくらいだ。 「..やべ、バイト」 目覚ましを見れば既に十分程夢について考えて居たようで眠気が覚めない身体を動かして準備を始める。何だかんだで真佑は夢の事なんて綺麗さっぱり忘れてたし、忘れる夢は大した事じゃないって事。そう親に言われて居たので真佑自身思い出そうともしなかった 「佐々木くん、お疲れ~」 「あ、店長、お疲れ様です」 「ニュース見た?連続殺人の犯人、昨日逃げたらしいよ~怖い怖い」 コンビニにも暇な時間はある、其の時間を見計らって店長が態とらしく怖がる振りをして話し掛けてきたものだから声を出して笑った、だって、俺が働くコンビニの店長はガタイが良くて殺人犯の方が願い下げって感じなんだから 「笑わせないで下さいよッ、..でも、連続殺人とか怖いっすね、ニュース見てないからよく知らないけど」 「近頃の若者はニュース見ないんだねぇ~」 いや、店長もそんなオッサンじゃないでしょ。なんて内心思っていたらレジ近くに置いてある新聞を持って俺の前に広げてくれた。一面に大文字で連続殺人犯逃亡!と書かれ目を通す、真佑の視線が一瞬止まったのは " 松本和輝 容疑者 " の文字。心臓がムズムズする、 「ここらを逃げてるらしいけど、警察も大袈裟な所あるからね~、でも一応気を付けて帰るんだよ?外出る時も。」 「ありがとうございます!でも大丈夫ですって」 他愛もない会話を続けて、接客をして、退勤する頃にはそのムズムズも消え去っていたし真佑は夕食の事で頭がいっぱいだった、行きつけのスーパーにスマホ片手に向かう。夕食の献立をネットで調べながら、今日は簡単に卵料理だ!と一人気分を上げスマホを籠に変えて必要最低限を買う、 「丁度卵安いとか、俺ラッキー」 なんて言った瞬間細道から出てきた人とぶつかって卵が入った袋が宙を舞った。不思議な事にそういう時はスロー再生されたかの様に見えて、袋がズレて、アスファルトに落ち殻が割れ、中の黄身が潰れる所まではっきり見えた。真佑は叫んだ 「本当、すみません」 深々と被っているパーカーのフードを押さえて何度も頭を下げてくれるのは良いけど、顔見せるのが筋だろ。と思った瞬間に腕を振り解かれて逃げられた。まるで俺が悪いみたいだろ..! 落ちた袋を拾い上げて何度中を確認してもやっぱり何個かは既にぐちゃぐちゃ..俺って不幸。さっきまで軽快だった足取りも重くなって、漸く家に帰る頃には食欲も失せていた。ルーティンの様にテレビをつけて部屋着に着替えていれば聞こえたのは " 連続殺人犯逃亡 " と報道するアナウンサーの綺麗な声 「連続殺人ねえ..どうせすぐ捕まるんだろ。そんな大袈裟に報道すんなよ」 疲れと不意に募ったストレスから呟いた言葉の後に続けられたのは " 松本和輝容疑者 21歳 " ..まつもと、かずき、松本和輝、なんか聞いた事あるな。脳内の引出しを隅から隅まで開けては閉じ、思い出そうとしても聞いた事がある。知ってる気がする。の曖昧なものしか見つからない 「..顔まで。全国指名手配、ね」 画面いっぱいに映し出された友人との写真。其処に映る容疑者の顔も心に引っ掛かる。左目尻の珍しい黒子にも目が行き、友達が似てる、とか芸能人に似てる、とかいう引っ掛かりだろうけど画面に映る笑顔でピースをしている容疑者から目が離せなかった。
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