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「無実なら、なんで周助はいなくなったのよ。やましいことがあるからなんじゃないの?」
元カノなのに――いや、元カノだからこそ、だろうか。美紀子は庇う気配もなくストレートに告げる。
「他のトラブルに巻き込まれて失踪した可能性もあるとは思うけど。それならそれで、しっかり調べて無実を証明してやるのが、親友だったあんたの仕事だと思うんだけど?ほら、さっさと見る見る」
「ええ……」
「何よ、真相を知りたい気持ちがゼロなら、なんであんたは此処にいるのって話でしょ。本当は気になってるから来たんじゃない?中学の頃の友達が、今どうしちゃってるのかも含めてさ」
「うう……」
なんだか、うまくやり込められた気がしないでもない。僕は渋々、日記帳を受け取った。ぶらん、と垂れ下がっている南京錠が酷く虚しい。よく見たら、鍵が開いているのではなくカバーが破れて鍵部分が取れかかっているのが原因らしかった。顔はいいのに結構なズボラだった周助を思いだし、溜息をつく僕である。日記なんてプライバシーの塊のようなもの、書くなら書くでちゃんと管理しなくちゃだめじゃないか、と。
六人組だったが、僕が一番一緒にいることが多かったのが周助だった。周助はイケメンで女の子に黄色い声援を浴びせられることが多かったわりに、気取ることもなく面倒見もいいみんなの兄貴分として同性にも人気があったのである。頭も良かったので、よく試験勉強の折には世話になっていた。そんな彼と美紀子が付き合うと聞いた時は心底納得したのである。アイドル的美少女の美紀子とイケメン周助、とてもお似合いのカップルに見えたからだ。
残念ながら彼は高校に入ってすぐ、親の転勤で引越しが決まり。本人が不便さゆえ寮暮らしになってから、それとなく疎遠になってしまっていたのだが。それでも、毎年年賀状のやり取りは欠かしたことがなかったし、ごく希にとはいえ電話もしていた。建築家になる夢ができた、いつか家族のための家を自分が設計してやるんだ――そう明るい声で話してくれたのが、最後の記憶である。
だから、信じられないのだ。何故、健太が死んだのか。その犯人として周助が疑われているのか。そして、肝心の周助は一体どこに消えてしまったというのか――。
――こんな家探し僕達がしたって……もうとっくに警察が調べてそうなもんだってのに……。
苦い気持ちのまま、僕は日記帳を受け取った。そして、あれ?と首を傾げることになるのである。
「なあ、美紀子……これ、おかしくないか?」
「え?何が?」
「ほら、よく見ろって。背表紙の厚みのわりに、ページが少なすぎるじゃんか。よく見たら、ページとページの間がスカスカだし……」
文字が書かれている数ページと、少量の白紙。それを除き、ページの殆どが喪失しているのである。この日記は、ページを丁寧にひっぱると、欲しいページだけ綺麗に破けるようにできているらしかった。
「書きミスして、周助が自分で捨てたんじゃないか?」
壮一は呑気にそう言うが、僕にはそうは思えなかった。なんといっても、消失したページ数が多すぎる。いくら周助がズボラなところがあるといっても、これだけ大量に書き損じなんてするものだろうか。
僕は首を傾げながらも、それ以外のページを見た。数少ない、文字が書かれたページには、このような事が記されている。
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