悪魔は揃って微笑んだ。

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『それからの日々は、俺にとって地獄のようなものだった。  今まで見ていた世界ががらりと色を変えてしまった瞬間を知った。  どうすればいいんだ。先生達に言っても、全然信じてもらえない……』  日付からすると、相当昔のものである。自分達がまだ中学生だったころだ。そのせいか、やや紙も劣化して黄ばんでいる印象である。 「それからの日々っていうの、なんなのかしらねー」  英理奈が長い茶髪をくりくりと弄りながら言った。真実を調べに来たはずなのに、さっきから調査の大半を僕らに丸投げしているように見えるのは気のせいだろうか。壮一も壮一で、しれっとそんな英理奈の腰に手を回してつっ立っているだけときている。 「……それから、っていうからには。何かの出来事からの“それから”だと思うんだけど」  まあ、言っている言葉だけは真っ当だ。僕は渋い顔になりつつも告げた。 「地獄っていうからには、よほどの出来事があったんだと思うんだけど。英理奈は、心当たりないの?壮一は?」 「ぜんぜーん」 「さあなあ。むしろ、お前ならわかるんじゃないかと思ったんだけど」 「いやわかんないって。わかんないから訊いてるんだってば」 『このままじゃ、健太があまりにも可哀想だ。  こんな風にいじめられていいような奴じゃない。なんでいじめれた人間が肩身が狭い思いをしなくちゃいけないんだ。なんで泣いて暮らさないといけないんだ。  この落とし前は、必ずつけてやる。でも、どうすればいい。俺一人の力じゃ、復讐なんかできない。あいつは絶対に巻き込めない。どうすれば』 『結局、このまま中学を卒業してしまった。俺は、臆病者だ。結局裁くべきやつらを逃してしまうなんて』 『殺してやる。  絶対に、殺してやる。まさか、中学だけじゃなくて、今の今まで』 「……これ、犯行声明じゃないの?怖くない?」  呆然とする僕の手元を覗き込んでいた美紀子が、やや不安げな顔で告げた。 「しかも、“やつら”ってことは……殺したい奴は一人じゃないってことでしょ。連続殺人?まだ犠牲者が出るってこと?」 「だから、美紀子!なんで当然のように、周助が健太を殺したことになってるんだよ。この書き方だと、周助は健太を心配してただけじゃないか。殺すって言ったら、加害者の奴をってことだろ。……っていうかこの書き方からして、健太はいじめに遭ってたっぽいよな」  それからの日々、というのは。健太がいじめられるようになってからの日々、という意味であったということか。  問題は、一番最後の一枚は、わりとつい最近書かれたものであるらしいということだ。日付が極めて新しい。一ヶ月くらい前が記されている。一体彼は、誰に対して殺してやると息巻いていたのだろう。中学の頃からの知り合いであったことは間違いないが。 「壮一、確か健太と同じ会社に務めてたって言ってなかったっけ。ほんとに何も知らないのか」 「知らねーって。同じ会社といっても、部署が一緒ってわけじゃないし。あいつと再会しても、殆ど話すことなんかなかったしさあ」 「そっか……じゃあ、わかんないか……」  加害者達の名前は、何処にも書かれていない。僕はつい、昔の癖で日記をくるくる回して眺めた。一時期、僕と周助の間ではいわゆる“暗号ゲーム”なるものが流行していたのである。お互いに紙を渡して、そこに暗号を潜ませ、秘密のメッセージを読み解くというものだ。当時流行していた探偵モノのアニメの影響だった。周助はスポーツマンだったが、アニメや漫画にも明るく、多方面で話がわかる気のいい奴だったのである。  そんな僕の所作を見てか、ねえねえ!と美紀子が声を弾ませて来た。 「何か暗号とか、見つかった?日記の中にさ、そういうの隠れてたりしない?だって二人の間で流行してたんでしょ、そういう暗号ゲーム。雅人と周助の二人でしょっちゅう遊んでたもんね。周助だけにわかる暗号とか、そこに隠れてたりしないー?」 「おいおい」
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