悪魔は揃って微笑んだ。

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 ああ、そういうことか。僕は納得した。執拗に、美紀子が“僕”に日記帳を見て欲しいと願ったわけ。この日記の中に、暗号が隠れているかもしれないと考えたせいなのだろう。僕だけに分かる暗号がどこかに潜んでいたら困るから――。 ――え?  その時。僕は唐突に――ある恐ろしい可能性に思い至ってしまった。  日記をくるくると回して見ながら、思う。暗号らしきものは隠れていない。しかし、よくよく考えてみればこの“日記”そのものが、事件の大きなヒントになっているような気がしてならないのだ。そうだ、彼が本当に殺人犯ならば。こんな日記など、そうそう残したままにしておくだろうか。だって自白しているようなものではないか。此処に書いてある“殺してやりたい”相手が別の人間であったとしても。状況的に考えれば、犯行予告を行っているなどと誤解されてもおかしくあるまい。 ――いや、違う。そもそもなんで……僕は、“この日記を手にすることができている”んだ……?  ぞわり、と。背筋が寒くなった。 「どうしたの、雅人」  美紀子の声が降ってくる。僕は、青ざめた顔を隠すように、日記を掲げて“なんでもない”と声を振り絞った。  そうだ、どうして気づかなかった。  何故、みんなは周助が健太を殺したと決め付けている?  何故、美紀子は中学で別れたはずの周助の合鍵を持っていた?周助の実家は一度引越しをしているはずなのに?  何故、美紀子はあっさりとこの日記を発見できた?  何故、こんなにも都合よく鍵の部分が破れて、カンタンに中が見えるようになっている?  何故、ページがいくつも破り捨てられている?  何故、残されたページには都合よく“いじめの加害者”の名前が出てこない? ――そして何故、僕は、此処に呼ばれた?そんでもって、健太をいじめていたのは……。 『結局、このまま中学を卒業してしまった。俺は、臆病者だ。結局裁くべきやつらを逃してしまうなんて』 『壮一、確か健太と同じ会社に務めてたって言ってなかったっけ。何か知らないのか』 『殺してやる。  絶対に、殺してやる。まさか、中学だけじゃなくて、今の今まで』 『何か暗号とか、見つかった?日記の中にさ、そういうの隠れてたりしない?だって二人の間で流行してたんでしょ、そういう暗号ゲーム。雅人と周助の二人でしょっちゅう遊んでたもんね。周助だけにわかる暗号とか、そこに隠れてたりしないー?』  決まっている。  この日記や部屋のどこかに、まだ。残された周助の暗号が――健太をいじめた奴らに関する情報が残っていないかを、僕に調べさせるためだ。  それがバレると、困るから。  健太を、恐らくは周助をも殺した本当の犯人が割れてしまう可能性があるから、だとしたら。 「ちょっと、どうしたんだってばー雅人固まっちゃって」 「あは、凄い顔色だけどどうしたの?」 「おいおい、何かわかったか?見つかったか?教えてくれよ、なあ」  振り返ったその先。  悪魔が揃って、微笑んでいた。
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