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「気が利くな。ありがとう」
「いえいえ、お構いなく」
パッセルはそういうと森の中に消えていく。一人泉の前に取り残され、さっそく衣服を脱ぎ入っていった。足で湯加減を確認する。少し温いが休むにはちょうどいいだろう。肩まで浸かると滑りがあった。滑る腕に触れながら、空を見上げる。足が伸ばせる風呂に入ったのは、何年ぶりだろうか。気持ちよさから息を吐いたそのとき、水しぶきが上がり、顔や髪を濡らした。顔を拭い、目の前を見ると裸のパッセルがいる。
「お前、なにやってるんだ」
俺は背を向けた。堂々と見たなんて思われたら、絶対2人にチクられて剣やら魔法やらでボコボコにされる。それ以前にデカいスズメにつつき倒される。
「イサムこそ、なにしてるの?」
パッセルの声は抜けて聞こえた。
「見ないようにしてるんだよ」
「なんで? サムも見てたし子どもだから平気だよ」
「でも、女だろ。自分のこと大事にしろ」
半ば怒鳴るようにいうと、はい、とショボくれた返事があった。しばらく木々のざわめく音が響く中、パッセルが話し始める。
「イサムが優しいね。サムとは違う意味で」
「そうなのか」
「ねえ、好きな人いる?」
突然の一言に振り返ってしまう。
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