21人が本棚に入れています
本棚に追加
12
「・・・・・・ねえ、イサムってば」
気がつくとパッセルが正面から俺を揺さぶっていた。俺は慌てて後ろを向く。
「なんで俺の前にいるんだよ」
「だから、平気だって言ってるじゃん。で、好きな人は?」
「いや、別に。ただ、慕ってくれた人はいた気がする」
俺が言うと、パッセルは嬉しそうに声を上げた。こういうのに食いつくタイプなのか。
「前の世界でもイサムはモテモテだったんだね」
「モテてたわけじゃ。というかこの世界の俺はモテる要素あるか。剣も魔法も使えないし」
問いかけると、パッセルが唸る。そして、閃いたように言った。
「なんか頑張ってた気がする、色々」
「な、なんだそれ」
「頑張り屋さんだったよ、うまくはいってなかったかもしれないけど。だから、みんな大好きなんだと思う」
「なるほどな」
努力家だったと思えばこの世界の俺と似ているかもな。この世界が合っていなかったってだけで。でも、もっと努力しなきゃな。
「俺、もっと頑張るよ」
「じゃあ、あたいも頑張る」
「頑張るってなにをだよ」
「ひみつ」
俺の後ろでパッセルの笑い声がする。
「イサムはなにを頑張るの」
その質問に俺は頭を悩ませた。特別な能力がない俺にできることはあるのか。俺が考えているとパッセルは閃いたように声を漏らす。
「マギサのお手伝いとか、どうかな?」
マギサって、あの魔法使いか。ふと、初めて会ったときの悲しげな顔を思い出す。他の2人とは関係が少し違いそうだな。
「それじゃ、やってみるか」
湯に浸かりながら伸びをして、空を眺めた。
最初のコメントを投稿しよう!