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「勇先輩、良かったら」  タッパを差し出したのは後輩の楯山優子だった。未だに新入社員のような薄化粧に黒いスーツを着ている。そして、タッパを持つ手は微かに震えている。なんでこんなときに。さきほどまで外にいた彼女はもめていたことなんて知らない。苛立ちを押さえながらタッパを開けてみると中身は肉じゃがだった。苛立ちを察したのか楯山の顔が曇る。 「あの、や、やっぱり」 「箸は? 流石に手では食えないから」  すぐに楯山は割り箸を差し出した。それを受け取ると、じゃがいもを一口食べる。俺が咀嚼している間も彼女はじっと見つめてきた。 「どうですか」 「ちょっと甘ったるいな。玉ねぎで甘味が出るんだから、そんなに入れなくていい。あと、じゃがいも煮すぎ」  俺のアドバイスに楯山の顔が沈む。デブのせいでキツイ言い方になってしまった。すぐに言葉を付け足す。 「この前の茶色い卵焼きよりは、ずっと良くなったんじゃないか」  すると、楯山の顔がパッと明るくなり、何度も頭を下げながらお礼を言った。その笑顔に先ほどの苛立ちも消えていく。そんな彼女を尻目に階段を下りていった。
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