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使い方を教わりながら材料を入れ煮込んでいく。その間、パッセルが両腕を振りながら木の板で扇いだ。
「気をつけろよ。あんまり本気でやると消えるから」
「分かってるって」
「薪はまだ足りるか?」
ヒネーテの声に振り返ると大量の薪を両脇に抱えている。
「ありがたいけど・・・・・・そんなにいるか」
「備えあれば憂いなしだ」
薪を置いていく度、地面が揺れた。なるべく細めの薪を選び、火に追加していく。調味料を足しながらヘラで混ぜる。
そのうち、水分が減っていき野菜と薄く切った肉が煮えてきた。湯気が漂い、甘塩っぱい香りに思わず喉を鳴らす。
「そろそろだな」
ヘラをお玉に持ち替え、器にすくい入れた。気になったのか、パッセルが覗き込む。
「早く食べさせてよ」
「待てって。味を確かめないと」
俺は器に口をつけ汁を一口飲む。さらに入っていた野菜を噛みしめた。この味は・・・・・・。
「どう? 美味しい?」
肩を掴み、問いかける。
「ちょっと甘ったるいな。たぶん甘みが出る野菜があるんだ、そんなに入れなくてよかった。あと、野菜も煮すぎ」
得意料理すらうまく作れなくなってしまったのか。だが、不思議と心は晴れやかだ。
「そうか? うまそうな匂いするぞ」
「私たちにも食べさせてくださいよ」
マギサとヒネーテも器を取り出し、よそい始める。俺が止める間もなく3人は食べた。
「なにこれ! すごくおいしい」
「こんなもの生まれて初めてだ」
顔が一層明るく輝く。
「まだ味を調整したかったのに」
言葉では不満を漏らしているのに、にやけているのが自分でも分かる。
「また作ってください。いくらでも食べますから」
マギサが暖かな笑みを浮かべる。この世界も悪くない。俺も彼女らに混じり、肉じゃがを食べた。
おわり
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