21人が本棚に入れています
本棚に追加
6
俺は自身の剣をヒネーテに持たせ、丘を登っていた。背中から来るそよ風に振り返ると、丘の下に街が見える。先ほどいた家と同じように、煉瓦造りでおとぎ話に出てきそうだ。彼女の話によると、俺らは魔王を封印する一行として、様々な街でおもてなしを受けているらしい。
「アタシたちが住んでいる家も街から借りているものなんだ」
「魔王を倒す一行っていうのは優遇されているんだな」
会話しているうちに丘の上に到着した。そこには、原っぱが広がっており、遠くには山々がそびえている。ふと、ヒネーテがある一点を指差した。
「見えるか。あれが魔王の棲む場所だ」
指し示す方向には、真っ黒い山が切り立っていた。その場所だけ黒雲が広がり、雷が落ちている。その中央にはこれまた魔王が住んでいそうな城があった。
「その魔王を封印するため、アタシたちは今まで戦ってきたんだ」
そう言って、俺の剣とは別に背負ってきた物の布を取る。それは身体とほぼ同じ大きさの大剣だった。ヒネーテが力強く振ると、風が起こり俺の髪や服が揺れる。その振るう姿をしばらく眺めていた。彼女にできるのなら、俺にだって・・・・・・。自分の剣を持とうとする。しかし、やはり剣先の方が上がらない。
「なんで。こんなに重いんだ」
「剣が重いんじゃない。イサムの力が弱すぎるんだ」
ヒネーテの言葉に俺は剣を落とす。魔王を倒そうとした勇者なら、もっと強いもんじゃないのか。
「だって、勇者なんだろ、俺」
「勇者と言っても、剣が納められている村にいた若者がサムしかいなかっただけだしな」
「じゃあ、ヒネーテはなんで?」
「そりゃ、国一番の騎士だからな」
肩に大剣を担ぎ笑ってみせた。あんなデカい剣振り回すんだ、国一番でもおかしくはない。でも、剣が全てじゃないはずだ。他に勝てそうなもの・・・・・・。そのとき、あることを思いつく。
「もしかして、俺、魔法とか使えるんじゃないか」
人差し指を動かし、魔法をかける真似をした。しかし、ヒネーテは呆れたようにため息をつく。
「いや、使えないぞ。というか、魔法に関してはマギサが本職だからな」
生死を操作できるんだから、それはそうだよな。というか、剣とか魔法とかある世界で生き返ったのに、凡人だったのか。
落ちこむ俺にヒネーテは肩を叩く。
「心配するな。今までアタシたちが守ってきたんだ。これからも守ってやる」
ヒネーテの笑顔に過去の自分が崩れ去った。頼られる側だった俺が、誰かを頼りにしないといけないなんて。握りしめられた拳に爪が刺さる。そして、もう一度、剣を持ち上げようとする。剣先は持ち上がらなくても必死に構えようとした。
「いきなり凡人になったからといって、甘えるわけにはいかないんだよ」
俺の言葉に彼女は、目を見開いたあと、少し口元を上げて笑った。
「そうか。サムとは少し違うんだな」
ヒネーテが手頃な木の棒を拾い、俺に渡してきた。俺の剣と同じ長さだが、比較的軽い。
「構えから教えよう。ただし、アタシの訓練は厳しいぞ」
ヒネーテが大剣を振りかざす。俺は棒を握り締め、大きな声で返事をする。
最初のコメントを投稿しよう!