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「あなたが、落とすのは金ですか?」
「…………は?」
目が覚めるとそこには、
真っ白とした空間に紳士が1人立っていた。
そして、いきなり「あなたが、落とすのは金ですか?」なんて言われた。
……嫌味を言われているようにしか思えなかった。
金がないのを知っていてか、知らずにか、
ともかく、こんな奴にそんな事を言われる筋合いは無い。
「……落とす金なんてこれっぽっちも無いですよ」
慎重に相手に話を合わせる。
ここがどこで、相手が誰なのかわからない状態であれば、慎重なのに越したことはない。
「しかし、ここはどこで……」
「あなたが、落とすのは金ですか?」
……言葉を遮られる。
少しイラッときたが怒りを抑え、質問した方がいいだろう。
「すみませんが、あなたはだ…」
「あなたが、落とすのは金ですか?」
…………まただ、さすがに、ムカついてきた。
しかし、話は合わせた方がいい。
心を落ち着かせ紳士に話す。
「ですから、金はないで……」
「あなたが、落とすのは金ですか?」
「うるせえ!!金なんかねぇんだよ!!」
……やってしまった。
怒りを抑えるつもりが、あまりにも鬱陶しく聞いてくるので、怒りがあらわになってしまった。
紳士は今では珍しい白色のシルクハットを深く被っているため、表情どころか顔すら見られない。
……気まずい。
すると、紳士は少し考える仕草を見せたあと、
スーツの胸ポケットから何かを取りだした。
「では、金がほしいですか?」
「……………何を言っているんだ?」
その言葉に俺は反応してしまった。
紳士が、取りだしたのは1つの指輪だった。
装飾もされていない、金色の指輪。
「これを着けて、ただ願ってください」
「…………?」
意味がわからなかった。
指輪を着けて、願うだけで金が手に入る?
怪しい宗教の勧誘でも受けている気分だ。
とにかく、こんな非現実的な事は信じない。
「バカにしてるんですか?」
「………バカにしている訳ではありません、これを着けて、ただただ願えば金が手に入りますよ。」
………胡散臭さこの上なしだ。
胡散臭さこの上なしなのだが……
「……信じてくれませんか……ならこの話はなしで……」
「……待ってくれ」
思わず口から出てしまった。
紳士の話を聞いて少し目が眩んでしまっていたのだ。
今は、どっかの知らない紳士にも縋りたい気分だった。
「着けますか?」
「……着ける」
すると、紳士は手に持っていた指輪を渡した。
「そうそう言い忘れた事がございました。その指輪ですが、願った額が出る訳ではありません。そして、それを使う度、誰かが死にます。」
「……!!今なんて」
「ですから、世界の中の誰かが死にますと、あなたなら、それでもすると思いますが。」
「……そんなはずわ…」
「何を言いますか」
「あなたは、もう人殺しなのですよ。」
「!!……」
紳士の言った言葉に、俺は息が詰まる。
……実際その通りだった。
親父が自分を苦しめたとわいえ、親父を殺しそのかねをうばった。
釈明の余地はない……。
……あの日から、考えていた金の作り方が脳裏に浮かぶ。
「……しかし、使うのはあなたです。
どうぞ、ご好きなように。では、失礼致します。」
……意識が薄れる。
それは、夢から覚める感覚と似ていた。
……薄れる意識の中、俺はあの考えが脳裏に浮かんでいた。
あの日考えた金を作る方法。
それは、
人を殺す
ただそれだけの事だった。
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