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壊れる心
数日が経った。
あれから、指輪は使っていない。
あの後すぐ人が集まり、
消火活動が行われたが向かいの家の主人は助からなかったらしい。
……俺のせいだ。
恐らく、親父を殺した時から俺は壊れている。
そう思うほどだった。
犯してしまった罪を自分で責める。
責めても手遅れだ。
悔いた所で犠牲になった主人が生き返る訳では無いし、罪が消えるわけでもない。
……自首しよう。
恐らく、火災のことについては事故で解決したので取り合ってもらえないだろうが、親父の件は自分でしっかりと殺した。
刑務所に入る事になるが、
そうでもしなければ、自分を抑えられない気がしたからだ。
金よりも人の命の方が大切だ。
……電話ボックスに向かう。
「お父さん、遅いよ公園早く行こ!」
電話ボックスに向かう途中、元気な声が聞こえた。
どうやら、父親とその娘が遊びに行くようだ。
……そういえば、まだ親父が会社に勤めていた頃、
こんな風に遊びに行っていた記憶がある。
あんなクズになってしまったが、その前まではいい父親であったと今になって思う。
「…………………」
……あの日の親父が脳裏に浮かぶ。
あれで本当に良かったのだろうか。
自然と、優しかった親父と、あの日見た親父の顔を
思い浮かべていた………。
足取りは重くなり、現実からは目を背けていた。
電話ボックスに着いた。
かける相手は警察だ。
電話ボックスの中に入り、受話器を取ろうと手を伸ばす。
すると、
プルルルルル……プルルルルル…
電話が鳴った。
いきなりの事で対応できず、受話器を取ってしまった。
「もしもし」
受話器を戻そうとした時、聞き覚えのある声がして手が止まった。
母親の担当医師の声だった。
「もしもし、月宮ですが」
受話器を耳に当て、返事を返す。
「あ、月宮さん、よかった繋がった、いえ、月宮さんが電話を持っていないようだったので、家の近くの電話ボックスにかければ、出るかなと思いまして…」
………どんな確率だよ……
そうも思いながらも話を進める。
「それで、どうかされましたか?」
「実は、………お母様の状態が悪く……数日以内に治療しなければ、命が危険です。」
「…………………」
「残念ですが、お金を頂けるようにならなければ、治療は出来ません。」
「…………………」
「あの、……大丈夫ですか?」
ガチャ……
電話を切った。
指輪を見る。
誰かが死にますあの紳士の言葉が脳裏に浮かんだ。
……俺にはすぐにでも金が必要だった。
心は、既に壊れていた。
金が欲しい
金が欲しい
金が欲しい
金が欲しい
ひたすらに祈った。
パサ……
茶封筒が現れる。
中は、1000万だった。
それを持って病院へとむかった。
道中、通りかかった公園では、少女の泣き声がひびいていた。
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