#2

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#2

「はーい、今日のまかないは焼きめしと具だくさんスープねー」  まき乃さんと遠也がテーブルにまかないの大皿と各自の取り皿を置いていく。  僕はコップと水差し、カトラリーを並べて席につく。ランチタイムの営業を終え、僕らはようやく休憩に入ったところだ。  この店のバックヤードは食事をとれるほど広くないので、いつもまかないは厨房に一番近い客席で一緒に食べる。 「ねー、これやばいんじゃないの?」  彩音がスマホを見つめたまま呟いた。  彼女ははっきりした顔立ちの美人なのだが、仕事柄化粧っ気もなく、華やかな印象を薄めるように仕事中は長い髪を束ねて眼鏡をかけている。 「彩音、ご飯のとき携帯見るの行儀悪いよ」  まき乃さんの言葉に「ごめん、まきさん」と答えるが、彩音の視線は画面から外れない。 「また?」  と僕が尋ねると、彩音は頷いた。僕と、ケンシンの口から長いため息が漏れた。 「またかよ……クソ」 「食べましょ、冷めますよ」  遠也が無関心に促すと、みんなどことなく重い手つきで自分の皿に食事をとる。 「あ、おいしい」  一口食べて思わず呟くと、はす向かいのまき乃さんがにっと笑った。さっぱりとした短い髪のよく似合うしっかり者だけど、笑うとやんちゃな子供みたいな顔をする。  まき乃さんの料理は、優しい味だけど単純じゃない、複雑な味がした。 「隼人、あれなんとかなんねーのかよ」  焼きめしをかき込むケンシンにそう言われ、眉を寄せ首を振った。 「僕一人じゃなんとも……」  店のメンバーは、年が違ってもおおよそ皆ため口だ。  僕、彩音、閑の三人は同学年の30歳で(閑は早生まれなので29だが)、まき乃さんが32歳、ケンシンが28、遠也が26とそれなりに年齢差はあるものの、割と上下関係は緩く、年齢が違っても割とため口が多い。  例外としては僕とケンシンはまき乃さんには敬語を使うし、遠也は全員に敬語を使っている。  閑が事務室のあるバックヤードのドアを開いてホールに出てきた。  プレオープンや吉澤様を招いた時はスーツ姿だったが、最近は大体長袖のワイシャツにスラックスという形で落ち着いていた。  PCで作業でもしていたのか固まった肩を緩めるように伸びをしながら、こちらの沈んだ空気など気づかないような間抜けな声を出した。 「ねー、今日のまかないなーにー?」 「まき乃さんが作った、焼きめしとスープです」  遠也がもそもそ説明すると「いいね~」と言いながら席につく。  皿に焼きめしをよそって、鍋に近い僕に「スープちょうだい」と声をかける。野菜がたっぷり入ったスープを深皿に盛ってやる。 「いただきまーす。……なんか、みんな暗いね。どしたの?」  大口を開けて焼きめしを頬張りながら、さして興味もなさそうに尋ねてきた。
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