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#12
そう思っていた矢先に、事件は起きた。
二度目のムニュ・デギュスタシオンが近づいてきたが、メインは決まらず、通常コースと同一のメインにするように言い渡されていた。
それで済んだと思っていたのだ、みんな。
夜の営業も終わりに近づき、残っているお客様が後二組、という所だった。
もうどちらのお客様もデザートやプティフールに移っている。
「遠也っ!?」
厨房から聞こえたまき乃さんの声。
ホールまで聞こえたと言うことはかなり大声を出したことになる。
僕はお客様に笑顔を向ける。
「失礼致しました」
彩音に目配せすると彼女は頷いて、皿を下げるついでのように厨房へ向かう。
戻ってきた彩音が僕に耳打ちした。
「遠也が倒れた」
あまりのことにドキッとしたが、顔はすぐ平静を装う。
「彩音がレジ代わって。
閑には外通って裏口からバックヤードに行くように伝えて欲しい」
「わかった」
彩音が頷いてエントランス側へ行く。
「……あの、何かあったんですか?」
僕はもう一度笑顔を作って不安そうにしているお客様に向き合った。
もう一組のお客様にもそれとなく伝わる音量で口にする。
「シェフが転んでしまったようです。
お騒がせして申し訳ありません。
パティシエは元気に最高のデザートを作っておりますので、
今少しお待ちください」
冗談めかして笑顔を見せると、お客様もたいしたことは無いのだと思ってくれた様子だった。
一組がテーブルで会計を済ませ、退店する。
閑がいないので僕が見送り、その間彩音がホールに移り、と、僕は一切裏の状況がわからなかった。
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