#12

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 皿を下げて厨房に入った瞬間、ケンシンと目が合った。 「状況は?」 「閑がタクシーで病院に連れてった」 「意識は? 大丈夫なのか?」  今は彩音しかホールにいない。  あまり長居はできない。 「ふらついて転んだだけだ。……ただ」 「ただ?」 「今はホール戻れ、閑からの連絡待たないとわからねぇ」  ギリギリと張り詰めるような気持ちで営業を終え、店を閉めると駆け込むようにバックヤードに入った。 「どういうこと? 何があった?」  慌てる僕に、不安そうなまき乃さんが口を開く。 「たぶん、貧血。 それで遠也が倒れて、 ケンシンがすぐバックヤードに運んだんだけど……」  ただ、とかだけど、とかみんな不安になる語尾をつけるので、状況がわからない僕は焦る。 「けど、なんですか、悪性貧血とか、意識戻らないとかですか」  ケンシンがガシガシ頭を掻いた。 「すぐ目は覚めた。しゃべりもはっきりしてた。 でも、すっころんだ時に、……多分、手首ひねってる」  ざっと血の気が引いた。 「右手!?」  バックヤードが静まる。ケンシンが重々しく頷いた。 「大丈夫なのか? 折れたり、何か後遺症とか」 「指も手も、動かせてはいたから折れては無ぇだろ。 閑がすぐ処置してた。後遺症だとかは、閑が戻らないとわからねぇ」  しばらく沈黙が続いたが、まき乃さんが立ち上がる。 「とりあえず、片付けと仕込みだけは、いつも通りやろう」
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