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「でも、手首の捻挫は軽度なんだろ? じゃあちょっと無理すりゃ……」
「させない」
ケンシンの言葉に対する閑の声は鋭かった。
苛立ったケンシンが言い返す。
「じゃあ休みにすんのかよ。
うちの店はただでさえマイナススタートで、やっとここまで来たんだ。
信用落ちるぞ」
しばらく沈黙が落ちた。
「まき姉、シェフとして立てる?
人足りない分は出張料理やってる知り合いに頼んで、
アシストに入ってもらう」
まき乃さんがしばらく眉を寄せてから、首を横に振った。
「前の時みたいに、シェフ呼ぶ人がいると思う。
そのとき、コミが……スーって紹介したとしても、
格下のスタッフが作ってたっていうのは、マイナスに思われるよ。
それならその出張料理の人にメインのシェフで立ってもらった方が」
「……いや、その人腕は悪くないけど、うちのみんなより落ちる。
シェフにはできない」
僕と彩音は厨房のことに細かく口を出せず、閑たちの話しを聞くばかりだ。
ケンシンは不機嫌さを隠さない。
「スイーツコースは俺がシェフとして立ってんだから、
まき乃さんが立っても問題ないんじゃないすか」
「そういうわけにいかないよ……」
まき乃さんが困った顔をする。
今回は、幸い事前のメニュー写真を上げていないので、別のシェフが立つのは可能かもしれないが、期待値の分、格上じゃないと収まりつかないというのは理解できた。
これはもう、休みにするしかないのではないか、そう思ったときだった。
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