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――どうして。僕は、そんなに信用できなかったか?
言っても仕方ないと思ったのか。
僕が閑を好きにならなければ、互いに触れあったりしなければ、僕を一人の人間として、信じて話してくれたのか。
全ての言葉が今更過ぎて、何も言うことはできなかった。
一つだけ、絞るように、閑に告げる。
「……本当にやる気なら、メインは野ウサギのロティだ。
サーブはデクパージュ」
閑を突き飛ばすように手を離した。
慌てたのは彩音だった。
「えっ……デクパージュなんてできんの!?
この間だってギリギリだったじゃん」
「やる」
閑が腕のことを隠したままやるつもりなら、これしかない。
メインで閑がナイフを握らずに済む。
それに、デクパージュなら、味を左右するのはメートルの腕だ。僕が責任を負える。
「やるって簡単にいうけど、
いや、もちろん私だってサーブのサポートはするけど
……無理でしょ、一人で取り分けのサービスなんて」
ケンシンも不審げな顔を隠さない。
「もしメインのタイミングが複数のテーブルで被ったらどうすんだよ。
客待たせて、冷めた肉切り分ける気か?
まともに考えたら、出来ないってわかるだろ」
「サービスや会話で、うまく、時間をずらす。
……厨房は、僕の指示をいつもより聞いて欲しい。
彩音は、ワインと水のサービスを、全部やってくれ。
料理のサーブ手伝ってほしい時は、こっちから指示出す」
僕の様子にケンシンが慌てる。
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