#12

7/10
前へ
/132ページ
次へ
 ――どうして。僕は、そんなに信用できなかったか?  言っても仕方ないと思ったのか。  僕が閑を好きにならなければ、互いに触れあったりしなければ、僕を一人の人間として、信じて話してくれたのか。  全ての言葉が今更過ぎて、何も言うことはできなかった。  一つだけ、絞るように、閑に告げる。 「……本当にやる気なら、メインは野ウサギのロティだ。 サーブはデクパージュ」  閑を突き飛ばすように手を離した。  慌てたのは彩音だった。 「えっ……デクパージュなんてできんの!?  この間だってギリギリだったじゃん」 「やる」  閑が腕のことを隠したままやるつもりなら、これしかない。  メインで閑がナイフを握らずに済む。  それに、デクパージュなら、味を左右するのはメートルの腕だ。僕が責任を負える。 「やるって簡単にいうけど、 いや、もちろん私だってサーブのサポートはするけど ……無理でしょ、一人で取り分けのサービスなんて」  ケンシンも不審げな顔を隠さない。 「もしメインのタイミングが複数のテーブルで被ったらどうすんだよ。 客待たせて、冷めた肉切り分ける気か?  まともに考えたら、出来ないってわかるだろ」 「サービスや会話で、うまく、時間をずらす。 ……厨房は、僕の指示をいつもより聞いて欲しい。 彩音は、ワインと水のサービスを、全部やってくれ。 料理のサーブ手伝ってほしい時は、こっちから指示出す」  僕の様子にケンシンが慌てる。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加