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「また、吉澤さんのSNS……」
彩音の言葉に、閑は口に入れた食事が急に味を無くしたみたいな顔をした。
この店が開店してから一月半がたった。その間、満席になったことは一度も無い。
もっと正確に言うと、全然お客が来ないのだ。
ディナータイムに、一組のお客様さえ来ないこともあった。
そうなった理由の一つが、吉澤様のSNSだった。うちに来た日から、何度も、うちの店に対するネガティブな投稿が続いていた。
『特に行く必要のない店です。
オーナーとは元々知り合いなのですが、僕は彼のようないい加減なやつが飲食店を経営していること自体腹が立ちます』
『早晩潰れる店だと思うので、スタッフたちの経歴の傷にならないかが心配です』
『逆に行ってみたいと言う人がちらほら見受けられますが、正気ですか?』
など、なかなか読むのも辛い言葉が、定期的に投稿される。
元々、閑に対して好意的ではなかった。だが、料理をおいしいと言って下さったのは、愛想や世辞ではなかったと思っていたのだが。
「いや、もう俺腹立ちすぎて、初めてうちの店けなしてんの見たとき電話かけたもん。ご自慢の舌バカになったんじゃねーのって」
当たり前のことをしたかのように言う閑に、僕の肩が怒りに震えた。
「お前、火に油注ぐようなことを……!
投稿のたびに予約のキャンセル入るんだよ。吉澤様に突っかかるのはやめろ、閑」
僕が言うと、「はぁ?」と閑は目を瞠った。
「明らかに吉澤のやってることの方がおかしくね?
いや、そりゃ笑顔で帰ったのに、ネットで悪口書き散らすお客さんはいるよ?
でもあいつはプロの評論家で、むしろくやしいけどうまいみたいな感じだったじゃん? その後俺のことはけなしてたけどさ、
それでああいう、店悪く書くのはただの悪意っつーか、もはや嘘だろ」
「嘘は、ついてへんでしょ」
黙々と食事していた遠也が呟いた。
「はぁぁ?」
と怒って立ち上がった閑を、静かに見上げる。
「別に、味もサービスも悪かったとかは言うてないじゃないですか、あの人。
なんでそんなにうちに潰れて欲しいんかはしりませんけど、あの人が言うてんのって、閑さんのこと嫌いやっていうのと、この店が人気にならんでほしいってことでしょ」
「……何、つまり俺が吉澤に盛大なツンデレかまされてるってこと?」
「ポジティブが過ぎない?」
彩音の冷たい声を聞いて、閑が座り込む。
「それでも、こんなん繰り返されんのは俺も普通に腹立ちますけど」
そう言って遠也は口元を曲げて、焼きめしのおかわりを大量によそう。
「あ、また上げてる」
閑がすかさず彩音の方を向く。
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