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 息をついた僕の側に、エプロン姿の閑が来た。 「何?」  顔を見ずにそう言うと、大分躊躇ってから閑が口を開く。 「……用事とかじゃないんだけど、あの……隼人」  仕事以外のことを聞きたくなかったし、聞く余裕もなかった。 「閑、ムニュ・デギュスタシオンが終わったら、 ホールに一人、経験者雇ってくれ。 余裕があればコミ・ド・ランももう一人。 ……半年か一年か、その人たち育てたら、僕は辞める」 「隼人!」  閑を睨んで黙らせる。  それでも何か言おうとした閑を、電話の音が遮ってくれた。  閑を無視して電話をとる。彼は諦めたように離れていった。 「レストラン、ル・シエル、瀬田でございます」 『明後日のムニュ・デギュスタシオンに、まだ空きはありますか?』  聞き覚えのある声だった。 「確認いたしますので、人数をお教えいただけますか」 『空いていれば……吉澤で、一名で予約をお願いします』  その予約は、評論家で、開店当初のこの店に対してネガティブな内容を発信し続けていた、吉澤勇希様からのものだった。
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