264人が本棚に入れています
本棚に追加
#13
当日、外は冷たい雨が降っていた。
暗くなるような天気ながらも、スイーツコースは前回と同じく好評だったが、終わってすぐ、僕らはすぐ夜の準備に取りかかる。
厨房に入ったとき、思わず息を呑んだ。
白いコックコートを着た閑がいた。いつもと同じ明るい目だが、口元が少し緊張して見えた。
一瞬だけ目が合う。
それはバックヤードからのガタガタという音ですぐに逸れた。
「俺、できます!」
彩音に止められながらも、転げるように駆け込んできたのは私服の遠也だった。
「もう痛みも取れましたし……、
あの、体調崩したんは、ほんますんません。
反省、してます。
そやけど、これ以上迷惑かけるわけいかないです。
俺できます」
閑は遠也の手首を見た。まだ湿布が貼られている。
「あ、これはちゃんと剥がして洗って、
匂いやら絶対つかんようにします」
閑は黙って首を横に振った。
「休んどけ。悪化したらよくない」
「できます。ただの捻挫です。たいしたことない」
「駄目だ!」
厨房がしんと静まる。諭したり、子供っぽく大声で怒ってみせるのではなく、閑がただ激高して大声を上げるのを聞くのは初めてだった。
最初のコメントを投稿しよう!