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緊張感と一緒に、集中力が上がっていく。
ホールの中が全部見える。
今は見えない厨房の中で、どう調理が進んでいくかもわかる。
「佐伯様、またお越しいただいてありがとうございます。
本日は佐伯様のお好きなホワイトアスパラガスの料理もございますよ」
「え、覚えててくれたんですか」
「もちろんです。今少しお待ちください」
お客様と話しながら、周囲にも意識を向ける。
普段、僕はお客様が求めていなければ積極的に話しかけない。
しかし、今日は僕が、ホール全ての進みを操らなくてはいけない。
普段はこんなことはしない。するべきでもない。
タイミングを調整して自分がサービスしやすい時間を作るよりも、お客様にとっての心地いい時間と、調理の最適な時間を繋ぐのが一番いいからだ。
お客様との会話、彩音へのワインを勧めるタイミングの指示、そして、サーブのタイミングを少しだけ、微妙にずらすことで、少しずつ、テーブルのタイミングを変えていく。
お客様の食べるタイミングの違いもある。それはこちらで全て把握するしかない。
「五番テーブル、あと十二分で魚出して!
1番のスープは今から皿下げて戻ってくるまでの間に出しといてください」
「ウィ!」
返事をした閑は、自分も厨房のみんなに指示を出している。
額には汗をかき、目には必死な色が浮かんでいた。
それでも、口元は、昔と同じく不適な笑みを浮かべている。
僕はすぐホールに戻った。
もうすぐ、一組がメインの野ウサギに入る。
ブランクのある閑が火入れをするのが一番心配だったが、オーブンには遠也が付いていた。
僕は少し緊張しながら、吉澤様の皿を下げる。
食事中、僕に見向きもせず、真剣な顔でずっと料理を食べていた。
前菜を食べているテーブルの進みが速い。彩音に目配せすると、彼女がワインをつぎ足して会話をしてくれる。
「すっごいおいしい」
そんな言葉に、いつもなら感じる喜びよりも、次何をしなければならないかの方が頭を巡っている。
ムニュ・デギュスタシオンは二度目だ。
だが、店を回せているのは二度目だからではない。
僕が今までに無いほど集中しているからでもない。
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