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厨房に出てきた閑に、視線が集まる。
「本日はお越し下さいまして、ありがとうございました。
シェフが違うということで、
不安な思いをされたお客様もいたかと思います。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです」
その言葉への返事はお客様からの拍手だった。
幾人かのお客様から声をかけられ、閑はテーブルで話しをしていた。
「実は、南仏の旅行に行ったときに、
あなたの料理を食べたことがあるんです」
僕は知らなかったので、当時はおそらく別なスタッフが対応したのだろう。
「また食べたい」「次はいつ立ちますか」と、いろいろなテーブルから声がかかる。
閑は困ったように笑って、一度厨房に戻った。
すぐに戻ってくると、コックコートに着替えた遠也を連れてきて、また口を開く。
「今日は本当にありがとうございました。
お喜びいただけたようで安心しております。
本日は月に一度のイベントということもありまして、
お……私の料理を食べていただきましたが、
普段はこの度会(わたらい)遠也シェフが腕を振るっております。
才能のあるシェフで、今夜も彼が監督してくれていました」
途中詰まったのは俺、と言おうとしたのだろう。
最後の言葉に遠也がえっという顔をした。
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