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全てのお客様を送り出し、店を閉めた。
ホールでは、みんなと、今日ヘルプで来てくれた章太郎さんがグラスを持って、ワインを飲んでいた。閑の姿はない。
「あ、隼人も飲みなよ。
これはいいヴィンテージだよーそしてお手頃価格!」
彩音のテンションが高い。大変な仕事を終えた開放感があるのだろう。
「閑は?」
「『今日は高いワインが出てウッハウハだから先に帳簿つけたい』
って事務室行ったよ。さっきはあんなにいいこと言ってたのに」
と、まき乃さんもにっと笑顔を見せた。
「本当、大盛況だったね!」
そう続けられた言葉に、僕は返事ができない。
「やっぱり、すげぇな、あいつは」
「ワイン注ぐたびテーブル見てたからお腹空いたー」
遠也だけは、何も言わずに、ワインを飲んでいた。
ケンシンやまき乃さん、彩音に精一杯笑顔を返し、僕はバックヤードを通って裏口を出た。
顔を押さえる。堪えようと思ったのに、駄目だった。
ぼろぼろと、涙が溢れて止まらない。
盛況だった。成功した。閑の料理も、喜んでもらえた。
閑が店で出す料理を食べたことなんて、ほとんど無い。
でも、僕は、高校の頃から、何百、何千と閑の料理を運んできたんだ。
今日の料理は、成功した。それでも、
――あのころの精彩さが、ない。
閑はもう、自分の料理ができないのだ。
悲しくて仕方が無くて、嗚咽が漏れるほどに泣いた。
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