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「吉澤、なんて?」
「店名がダサいって」
「はぁぁ? ダサくないんですけどぉ? ダサくないよな、遠也」
遠也は閑を見ずにスープを飲みながら答える。
「同じ名前のとこ、そこそこありそうやなぁとは思いましたけど」
「確かにそうかもしれんけどいいんだよ! 深い意味があんだから! かっこいいだろル・シエル!」
シンプルな店名なので、いかようにも深い意味をこじつけられそうではあるが、僕らは特に聞いたことがない。
閑のことだからたいした意味でもないだろう。
騒ぐ閑をよそに、まき乃さんが僕に尋ねた。
「店名のことは置いておいてさ、今日も、ディナーほとんど予約入ってなかったよね?」
「はい。女性2名の一組だけです」
「土曜の夜に、一組だけかよ」
ケンシンは頭をガシガシと掻いて、食べ終えた自分の皿を持って厨房へ下がっていった。
皿数が少なく値段も安いコースを提供しているランチタイムは、比較的お客様が入っているが、盛況とは言いがたい。
それにうちのランチ営業は土日の週二日だけだ。ディナータイムにお客様が入らないとどうしようもない。
対策をとっても、フォロワーの多い吉澤にネガティブな発言を繰り返されては、こちらはなかなか辛かった。
リピーターや、紹介されてのご予約のお客様がいらっしゃること、実名の口コミサイトでの評価が悪くないことが何よりの救いだった。
ただ、紹介や口コミサイトでゆっくりとお客様が増えたとしても、軌道に乗るまでの間を持ちこたえられるのだろうか。
吉澤様がこの店に攻撃的な理由を閑に尋ねても、互いの間に、ここまでのことをされるようなトラブルは無かったという。
「閑、このままお客様来ないとまずいのはわかってるよな?」
膨れ気味の顔で閑が僕を見てから目を逸らして彩音の方を向く。
「彩音、前の店のお客さんとかでさ、うちの店好きそうな女子いる?
それかいろんな女性と食事に行くタイプの男性」
彩音がきゅっと眉を寄せた。
「……あー、一人いる。プレにも来てたけど、最近仕事忙しいようなこと言ってたから、どうだろ。一応声かけてみる?」
「頼むわ」
彩音は渋々といった感じで、スマホに触れて、連絡を取っているようだった。苦手な人なのだろうか。
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