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「今日、曲がりなりにも、お客さんに出せる料理作れたのは、 本当に、奇跡みたいだった。 料理だけは真面目にやってたから、 きっと、料理の神様的な何かが、 最後にこういう演出してくれたんだな。 隼人と、一緒に仕事ができた」  息を吐いた閑が、右手を見つめてさみしく笑う。 「高二の夏からずっと、一緒に同じ道走ってたよな。 隼人が、俺の背中を追いかけてくれたから、 俺、実力以上の場所まで走れたんだ。 ……でも、俺はもう走れなくて、 隼人はもう、俺が昔いた場所より、先を走ってるんだよ」  閑を追いかけて生きてきた。  彼という料理人を、本当の意味で失ったことを、今日知った。  閑が、僕を見上げる。 「隼人は、こじんまりしたレストランでメートルやる人間じゃない。 ……あいつは、遠也は、必ずお前に追いつくよ。 隼人に釣り合うシェフになる。 そう思ったから、あいつにしたんだ。 だから、気長に育てていきたい」  閑は柔らかく笑った。 「最初は、店もシェフも、 どうしたらいいか全然わかんなかったんだよね、 俺インテリアとかもよくわかんないし。 でも、隼人の働く姿思い浮かべたら、 コンセプトも全部、すぐ決まった。 隼人のサービスのスタイルに合った、 隼人が運んだときに映える料理のこと考えてた時に、遠也に会ったんだ」  閑の言っていることがわからない。  遠也の料理に合わせて、コンセプトを決めたんじゃないのか。  閑の言葉はまるで、僕に合わせて、コンセプトとシェフを決めたように聞こえる。 「何言って……」 「……気づいてない?  遠也には直接、隼人のための店だって言われたことあるよ。 それに、わかりやすいと思ってた」 「……え?」
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