#13

11/13
前へ
/132ページ
次へ
「店名。ル・シエル。意味、わかるだろ」  ル・シエル、空だ。  そんなことはわかっているが、閑が何を言いたいのか、空の店名が何を意味しているのかがわからない。 「え、……あのほら、隼人って、兄妹全員、そうだろ」  兄妹全員? 僕とひばりとすずめとつぐみの共通点、と考えて初めて気づく。  閑は一瞬だけ恥ずかしそうに顔を歪めてから、口を開いた。 「鳥の、名前だろ。 ……だから、ここはル・シエル。 お前が、飛ぶための場所」 「……………なんで」  僕は聞いたことがまだ、信じられなかった。 「隼人」  閑の右手が、僕の左手を握った。  まっすぐな目が、立ったままの僕を見上げている。 「ねぇ隼人、俺とずっと一緒にいてよ。 誰かと結婚しても、恋人がいてもいいから、 俺と一緒に、この店をやってよ。 最高の、メートルとして」  そう言った後で、閑は怖がるように一度目を伏せた。 「この前、触ってごめん。辞めるっていうのは、考え直して欲しい」  僕の手を握る指先が、震えていた。 「……ごめん、黙っていなくなってごめん。 あのころずっと好きだって言えなくてごめん。 心配してくれてたのに、笑って、そうやって拒絶してごめん。 怖かったんだ、そんでガキだった。 お前の前でかっこつけてたかったし、 それ以上に、料理できなくなったら、 隼人が離れていくんじゃないかって、怖かった」  閑が、請うように、握っていた僕の手の甲に額を押し当てた。 「お願い、ずっと俺と一緒にいて」  僕の指先に、閑の涙が伝った。 「俺、隼人がいないと駄目なんだ」
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加