#14

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#14

 朝日で目が覚めた。  見慣れない天井と、馴染んだ閑の肌の匂いにドキッとする。  隣を見ると、閑がこちらをむいて眠っていた。  口を開けた寝顔を見て少し笑う。  閑が顔の側に投げ出した手に視線が止まった。  右手首の手の甲側に、まっすぐな傷跡が残っている。  おそらく手術痕であろう傷跡を、指先でそっとなぞる。  まだ、直視するのは悲しかった。閑も同じ思いから、利き手に時計をはめているのかもしれない。  閑がハッと不安そうな表情で目覚めて、僕を見て表情を緩めて抱きついた。 「おはよう」  そう言うと閑は僕に「うん」とだけ返事をして、しばらく抱きしめた後、起き上がった。下着をはいて、僕を振り返る。 「隼人もう少し寝てていーよ。俺が朝飯作るから」 「平気なのか?」  不安になって身を起こすと、閑は自分の右手を見てから軽く振った。 「もう悪化するとかはないよ。 ボルト入ってるから、可動域と握力は落ちちゃってるし、 昔みたいには動かないけど」  昨日の営業でも、ほとんど下ごしらえはやっていなかった。プロとして満足のいく動きは、もうできないのだろう。  閑が使った後でシャワーを借りて、服を着ると、既に簡単な朝食が用意されていた。
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