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パンにオムレツ、タマネギのスープと僕の好物のキャロットラペ。
「いただきます」
スープを飲んで、ラペを食べる。
「これ、今日作ったんじゃないだろ」
しんなりとして、味が慣れていておいしい。さっき作ったばかりではない。
「……うん」
妙な間に眉を上げると、閑がもごもごと話す。
「隼人のこと考えるたびに、作ってた。
……重いよな、キモいって言ってもいいよ、キモいもん」
「そんな風に思ってないよ」
閑が、スープを口に運びながら僕を見た。
「……あのさ、隼人」
「ん?」
「今度、一緒に、ヒロさんとシュザさんに会いに行こう。
うちの店に、来て下さいって言いに」
僕は、言葉にならなくてただ頷いた。
閑の中でやっと、踏ん切りが付いたのだろう。僕もそうだ。
これからずっと、閑とあの店をやっていくと、決めた。
スープのタマネギの厚さは、揃えようとしたのだろうが不均一で、やはり閑の料理は少し下手になっていた。でも、十分においしい。
――あぁ、そうか。
閑の料理は、閑らしいのだ。明るくて楽しくて、ひょうひょうとしていそうだけど、冷静で実は完璧主義。
閑が自分を一番表現できるのが、料理だったのだ。彼はもう昔ほど料理で自分を表現できない。
だが、別に閑自身が変わったわけではない。
閑が特別なのは、料理ができるからじゃない。
僕はただ、料理を通して閑の特別さを知っただけだ。
「閑」
「ん?」
そう思ったら、自然にこの言葉が漏れた。
「愛してるよ」
閑の目が、輝いた。
「……俺も」
こういう気持ちを、少しずつ集めていこう。
仕事をしていないと、いつか離れてしまいそうだと怯える僕らの不安を、安心に変えてくれる気持ちだ。
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