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「だから、 いい大学に行って跡継ぎ候補として会社に入るのが親の望む道で。 僕自身、勉強ができたこともあって、 もらえたチャンスは一度きりでした」  そう言って自嘲めいた笑いを零した。 「専門学校で、優秀な成績を出せたら、 料理人になることを認めてやると。 結果は駄目で、一浪で大学に行きました」  吉澤様は、料理人を目指していたのか。そして、専門学校で、閑と会ったのだ。 「成績以前に、打ちのめされました。 味覚には自信があったんです。 でも、そんなちっぽけな自信を打ち砕くぐらい、才能の差を感じた」  僕を見上げた目は、苦しげに歪んでいた。 「フランスで、シェフまで勤め上げたのに、それを簡単に手放して、 しばらくしたらいきなり、料理人を辞めてオーナーですよ。 かと思えば気まぐれにシェフをやってみたり、許せるわけない。 才能がある人間って、横暴ですよ」 「違います」 「違わないでしょ。 僕はまだ、料理人を諦めた時のことを思い出すと、 胸が煮えたぎるような思いがする。 それでもせめて料理と関わっていたくて、ブログで評論を始めました。 まだ料理ができるあいつが、 気まぐれに鍋振って飽きたらオーナーに戻ってるなんて、僕は……」  きっと僕たちにとっての彼と同じように、吉澤様にとっても閑は特別な存在だったのだ。 「吉澤様、違います。オーナーの大村は……閑には、もう、料理は」  吉澤様は、呆然と僕の話を聞いていた。聞き終える頃に、俯いて、顔色を失っていた。 「……オーナーにも、謝罪したいです」 「吉澤様、その前に、新しいコーヒーをお持ちします」
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