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予約のあった、40代の女性四名様の来店、だが、お客様がそっと僕に伝えた一言。
「実は……、一人、おとといが誕生日だったらしくて」
僕はにっこり笑った。
「かしこまりました」
厨房のスタッフは非難がましい目で僕を見ている。
「なんで俺らにまでサプライズ仕掛けてんのか
全く意味がわからへんのですけど」
どういう集まりなのかは予約の時点で情報を収集しているので、おそらくその後で誕生日がわかったのだろう。
不幸中の幸いと言えるのは、誕生日当事者のお客様も含め、リピート客であるということだった。
彩音にはホストを立てつつゲストが前回飲んでおいしいと言っていたワインを勧めてもらい、僕はなんとか急な変更でも対応可能な案を出す。
「全部の料理のポーション減らして、デセール一皿増やせる?
今のランチで出してるやつ、前に来たときお気に召してたみたいだから」
「皿増やさなきゃだめか? グランデセールと一緒に盛るのは?」
「あ、それでもいい。ありがとう」
ホールに戻ると、四名のお客様が、話しに花が咲いているのか、声が大きくなってきていた。
こういうとき、他のお客様のご迷惑になるので、というのはうちのようなレストランでは厳禁だ。
他のお客様を盾に自分の要求を通してはいけない。
僕は笑顔でその輪に入り、軽い冗談を言った。ありがたいことに皆様笑ってくださった。ここで注意を引いてから、ゆっくり、落ち着いた口調で次のコースの説明などして、輪の中の会話のテンポと音量を少し落とす。
「ごゆっくりお楽しみください」
そう言って離れると、先ほどより会話のテンポが落ちる。
ようは自分に注意を集めて、盛り上がる話題から話しを逸らすだけだ。本当にうるさいときは、やはり同じように輪に入ってから、少し声量を落とすようお願いする。
最初から注意しに行くのと、輪に入ってからお願いするのでは、受け取る印象が違う。
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