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席を立った吉沢様を送る閑と一瞬目が合う。
やりとりを見ていたらしき彼は軽く頷いた。
僕は前を向く。
まだ、自分のシェフは閑だという想いは捨てきれない。
閑自身、料理との関わり方はこれからも悩むだろう。
そしてなにより、閑も僕も、仕事と、お互いへのかかわり方を、これからも模索し続けていくのだと思う。
でも、僕たちは過去に囚われたり、未来を妄信するほど、若すぎもしないし、老いすぎてもいない。
だから、今はただ前を見て仕事をする。
新しいお客様も、馴染みのお客様も、同じ笑顔で出迎える。
「お待ちしておりました」
主役は料理とお客様、僕はその間を今日も飛び回る。
「んー、おいしい。最高、天国だわ」
「ありがとうございます」
お客様にとっては天国。
「2番のメインまだ?」
「アレルギー対応と普通のとを同時に完成は厳しいんですよ!
まき乃さんこっち入ってください!」
「誕生日のテーブルで出す追加デザート、
今から仕込まないと間に合わないの!」
「悪い、これ終わったら俺も手伝う」
「今手伝って欲しいねん、作業が地獄になってんのは今なんですよ!」
厨房にとっては地獄らしい。
――それでも、
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