264人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
「本日、予約一組増えました。
男性一名様で、来店はプレ含め二度目のお客様です。
アレルギー、NG食材等ありません。よろしくお願いします」
全員から「ウィ」と返事があり、遠也が僕を見て何か話したしたそうにしている。
「どうした?」
尋ねると、「んぁ」とかなんとか言ったような気がするが話し出さない。集団の中で発言するのは平気なようだが、どうも人に話しかけたり、一対一の会話が苦手らしかった。
「遠也?」
「……あの今日の朝、岸川農園さんが、新しいなす持ってきてくれはって」
一度ナイフを置いて数歩だけ僕に近づいてきた。
「新しいなす?」
「えっと、あれです、普段の仕入れとは別に、試してくれ言うて」
「試供品みたいな感じで、新しい品種のなす持ってきてくれたんだ?」
遠也はこくんと頷いて、「それで……」と言いにくそうに切り出した。
「そのなすめっちゃいいんで、メニューに使いたくて。
試作するんで、閑さんに今日残ってくれって言うてくれませんか」
「別にいいけど、自分で言ったほうがいいんじゃない?
今、そこまで忙しくないんだろ?」
遠也は作業台の上をちらりと見てから、もそもそと話す。
「隼人さんから言うた方が、閑さん断らへんやないですか」
「い……や、あいつ僕の言うことなんて聞かないよ? こういうのはシェフから言った方が」
遠也の言葉になぜかぎこちなく返してしまう。
誰が言っても閑の対応は変わらないと思うが、遠也が重ねて「お願いします」と頭を下げるので、僕もわかったと頷いて厨房を出た。
事務室に入り、たどたどしくキーボードを打っている閑に遠也からの伝言を伝えると、意外にも答えはNOだった。
「明日ならいいけど、今日は駄目だなー」
「なんで?」
特に気になったわけではなかったが、遠也に理由を尋ねられたときのためにそう聞いた。
「明日もランチあるから、今日の夜試作じゃ徹夜になりそうだろ。明日の夜なら、ほら、月曜定休だから、寝れるし」
「……わかった、伝えとく」
キーボードを打つ手を止めて、椅子を回して閑がこちらを向いた。
最初のコメントを投稿しよう!